息子、投薬開始|ストラテラ2日目
昨夏、はじめて受診した医師に「投薬という選択もある」と言われた息子に、クスリを飲ませてみることにした。
前置きはさておき、とりあえず2日目までの様子。これ備忘録。
初日、1月22日土曜日の朝。
飲み始めは土曜日と決意していた。わたしも完全休日だから、まる2日間はわたしが様子を四六時中見ていられる。
処方されたのはストラテラ。最小の5mgカプセルを、朝夕食後の一日2回、それぞれ1錠ずつ飲む。
小児がカプセルを飲むのは難しい。ましてやいくら口頭で説明しても意味が理解できず、実践で示してもまだハナをかむのがヘタな息子だ。去年の関西遠征時前から親子でひどいカゼに苦しんでいたが、気づかないフリを決め込み、わたしが最悪のときだけ飲む健康食品を息子に割って飲ませたところ、40分もかかってしまった。ストラテラ5mgは割った錠剤の3倍はある。
お菓子のラムネを飲み込ませて練習する手段もあるようだが、まずはツルンと飲み込んでいそうなゼリーに埋め込んで飲ませる作戦を試してみた。
失敗した。息子は、ゼリーを飲み込んではいなかった。ちょっと太ったスティックシュガーといった形状のチューブタイプのゼリーを、まずは一口好きに食べさせて、もう2度ほど食べさせる。次に飲ませてみた。飲めない。それを3度繰り返し、2度続けて飲み込めたところで今度はカプセルを埋め込んで口に入れた。まったくダメ。
時間ばかりが過ぎてゆき、口の中でカプレットが溶けてきていた。作用時間に変動があってはマズイかもしれない。「にがい〜」とグズる息子、わたしの焦燥感が息子を緊張させる悪循環。ノドに押し込む暴挙作戦もダメ、泣く息子が無理矢理飲み込むまで、やっぱり小一時間かかってしまった。
飲み込んだところで息子はケロッとしていた。念のため水を多めに飲ませた。
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夜は、息子の大好きなうどんにした。一年の福を祈願して買ってきた大寒たまごを入れて鍋焼き仕立てにした。ふだんは2人前をたいらげるのに、驚くほど箸が進まない息子は、うどんを数本もてあそんで食べたあげく、テーブルに突っ伏して寝入ってしまった。保育園では小学校進学を控えた年長児はすでに週に2度は昼寝をさせていない。息子はもともと3年前から自宅で昼寝をしない。保育園でも寝ないことが多いので、特に生活に支障はきたしていないのに。ギクッとする。
うどんはもう食べなくていい、今日はよくがんばったからと、前日に買ってあったホイップとチョコでデコレーションしたチョコレートプリンを提案すると、よろこんで食べた。「おいしいからおかあさんとはんぶんこする」と言ってくれたので、一口だけもらった。
リラックスして夜のお薬タイム。
一口目のスティックゼリーから、ごくりと飲み込んだ。大丈夫?「うん、もうごくんって飲めるよ!」もう2口ほど与えても丸呑みした。よ、よし…カプセルをなるべく慎重にゼリーの中心部へ押し込み、息子の口へ入れた。数秒アゴを上げてモゴモゴして、ぱあっと笑顔で「おくすりだけのんじゃった!ゼリーは残したよ!」口の中とチューブに残るゼリーを好きに食べさせた。
翌1月23日。8時前までぐうたら寝ていた母に対し、「おかあさんが起きるまでテレビ許可」と伝えておいたからか、6時41分には起きていたという息子。テレビに夢中になると、もともと朝は食が細い息子は、空腹感もほとんどないと口にする。
とはいえ、息子が志願したのでとっておいたのびきっているうどんを出したものの、朝もあまり食が進まない。いや、朝はいつも食べない。それにしても…。あるいは口に合わない味だったか。お薬のおともゼリーは、昨日のぶどう味からもも味に変更。やっぱり最初からゴクンと飲み込んでくれて、スムーズに服用ができた。
戸惑いながら空腹を訴えるときを待つ。いつも朝食をあまり食べないから、昼食をせがむまで2時間くらいしかない。昨日はそんないつものリズムで昼食は食べたのだけど、今日は食べたがらないので、先に用を足しに一時間ほど出かけた。
帰宅して競馬中継をつけるころ、ソファでぐったりと寝入ってしまった。
夕飯は、ツルツル麺が大好きな息子のためにと、肉団子と白菜、春雨をたっぷり入れたスープを作った。炊きたてのごはんにイクラ、おかずはいらないと言うので心配したが、いつも使用量には厳しい制限をしているふりかけを解禁したらごはんをお代わりもしてくれた。しっかりと食べてくれたので安堵。
食後の薬もすすんで飲みたがる。ゼリーはやっぱり最初からゴクリと丸呑みできて、すんなりとカプセルも飲んでくれた。2度目から苦行をこなした息子をたくさん褒めた。にっこりして「おくすりもっとのみたいよ」と言う。
これもまた、母がうれしそうにするから、もっと飲んで褒められたい願望からくるものなのだろうか。不安だ。
「からだがかゆいー」の訴えに過敏に反応する。副作用のひとつに「かゆみ」があり、これは肝機能障害から来ている可能性もある。投薬中止レベルのサインだ。しかし乾燥肌の息子は、いつもお尻や太ももがカサカサしている。もう少しだけ様子をみてみよう。シャワーで軽く汗を流し、保湿クリームをたっぷりのばした。
ストラテラを処方された息子をかんたんにご紹介。
いわゆる発達障害で、初診の医師には「多動を含むアスペルガー症候群」、札幌市の指定医には「広汎性発達障害」そして、この医師には「これが高機能自閉症」と診断されている。
半年ほど迷い、保育園卒園を控えた今、試してみてもらおうと決心して、処方を受けた。
今春には小学生になる予定。春には7歳の誕生日を迎える。どこの小学校へランドセルを背負い通うかが、まだ決まっていない。どんな先生や生徒、保護者たちと6年間を過ごすのか、ますますわからない。
環境の変化と投薬の時期がカブると、正しく薬の作用の是否が判断できかねる懸念を抱いた。わたしには自信がない。すでに信頼関係が確立されていて、かつ息子の性質をよくご存知の保育園に在園している今ならば、日中の息子の様子を正しく見ていてもらえると考えての判断。
乳児のころから診ていただいている内科医は、息子が発達障害にまつわる薬を飲むことをあまりよく思っていなかった。「ぼくは専門家ではないけれど、あの子は投薬するほどには見受けられない」。それでも保育園からの指示を受け、専門病院に行くと報告したとき、「話が早いし紹介扱い(行く病院は紹介がないと別途初診料をとられる)になるから」と、一円も受け取らず、これまでの息子の病歴と、わたしからのヒアリングをまとめた手紙を書いてくださっている。ちょっと胸が痛んだ。
昨夏受診したU医師は、発達障害に関して非常に名の知れた医師。再診に訪れたのは、最初に発達障害の疑いで検査を受けにいった病院の医師に不信を抱いているわけではない。むしろ診察の大半が親だけ通い、質問やらあげくグチにも至り、ヘタすると2時間を超える発達障害児診療への時間をとってくださる。塾の特高クラスかってくらい結論だけ述べるタイプのこのU医師よりも好きではある。距離的にも近くて、かのU名医の門下生的存在でもあり、U医師の初診後もこちらの先生の診察を受けに行っているのだが、今回の自分だけではとうてい背負えないこの重たい決断を、より年輩で有名な医師に委ねたかっただけかもしれない。
先々週の診察で投薬を申し出た日は、パンフレットを渡され、5分で帰らされた。「読んでもう一度よく検討して」
無給早退までして、除雪が追いつかず幹線道路も雪でハンドルがとられるモワモワ道路、トンネルの近くで2度も雪山に座礁して1時間半かけて着いた病院で、予約時刻から1時間半も待たされて。ついでにお会計までまた30分待たされて…
若干のショックを隠せなかったが、なにしろU医師は初診時に半年以上待たされた医者だ。決断できなくともとその場で次回の予約を入れて帰り、パンフレットを読んだ。
やっぱり意思が揺らいだ。
渡されたパンフレットは2冊。「ストラテラ」と「コンサータ」のもの。ストラテラは2009年に日本で認可を受けたばかりの新薬。それが日本での認可に至った理由のひとつであろう事象は、コンサータのパンフレットに記されていた。副作用が実に4割。そんな薬聞いたことない。目が泳ぐ。けれどもコンサータがAD/HDの国際的にスタンダードな薬なのだ。それとて日本での認可は2007年12月なのだが。
そう、自閉症の薬なんてものは地球には存在しない。原因すら特定されていない疾患なのだから当然だ。
自閉症児の多くが併発するといわれるAH/HD症状に改善がみられるというだけ。それとて、ADHDへの適応における詳しい作用機序は解明していない。そもそもがADHDじたいが本当に疾患として存在するかどうかすら論議されているのだから当然だろう。アメリカでも勉強してきた学校教諭の友人が出した結論は、「オレはLDはあると思う。ADHDは疑わしい」。恐ろしい話だ。
それでも、近しい作用をもつストラテラが開発され、日本で認可を受けた点をポジティブに捉えてみることにした。ストラテラは日本ではまだ18歳未満で飲んだことのない人には処方できない(アメリカでは可能)。その意図がよくわからないけれど、いずれも到達するのは「脳のノルアドレナリンとドパミン(脳内神経伝達物質)を神経伝達物質受容体へ送り届けようとする」という作用。
難しい薬だ。何しろAHDHやLD、自閉症スペクトラムに含まれるアスペルガーなどの発達障害は、脳の気質異常だと「ノルアドレナリンとドパミンが うまくはたらかないために起こる症状と考えられます」としか、まだ研究が進んでいない。効くかどうかももちろんわかるわけがない。
14年ほど前、人生の岐路に立ち、迷っていたころ、急に耳の調子がおかしくなった。病院ギライが発症翌日には駆け込まざるを得ないくらい、ずっと水中にいるような耳鳴りと、それに伴うめまいがひどかった。家族を呼ぶよういわれたが、わたしが聞きますと向き直ると、渋い表情の医師の口から発せられた病名は、今やちょっとメジャーになった「突発性難聴」だった。
耳もまた、謎の多い部位だ。治療法がなかった。治癒した症例があると提案されたステロイド点滴に1ヶ月近く通った。毎日3時間、自由のきく左手だけでスポーツ新聞を開き、「杉本清さんの実況や、岩城宏之の指揮するチャイコフスキーが聴けなくなるのだろうか」と考えていた。幸いにも左耳がごく低音を拾いづらく、ノイズの多い電話や人ごみでの会話が聞き取りづらいこと、体調がすぐれないときに耳鳴りがすること以外、普通の生活を送れるまでに回復した。
大人と過ごすと、息子はフツーの子に見られる。「どこもおかしくない、治療だなんてとんでもない!」と怒られる。子どもの集団に混じってはじめて、右ならえのできない、先生に言われたことを守れない、というか何かに集中していたら聞いてもいないだけといえばそれまで。実際に、息子と酷似した症状をもつ子どもが、小学校の普通学級で苦労している話を聞いて、背筋が凍った。あとほんのちょっとの落ち着きがあれば、知力には問題がないというのに。
たったそれだけのためではない。とても大きな「たったそれだけ」だから、難しい。
落ち着いた子どもがいるならば、リスクを背負っても試してみたい。そしてそれは今、決断にふさわしいと考えた。
これらの薬と、子どもによっては抗てんかん薬、精神安定剤を組み合わせて処方されたりする。かつて依存や自殺、売買が悪目立ちして、鬱病などへの処方の規制がなされ、現在はナルコレプシーとAD/HDにしか処方されなくなった中枢神経刺激剤・リタリンと、コンサータは、同じメチルフェニデート。ちなみにリタリンの別名は「合法覚せい剤」。リタリンとコンサータは専門医しか処方できない薬物に指定されている。ストラテラはかなりマイルドになっている。一発コンサータに賭けるのか、新薬に期待するのか。それは医師に判断を委ねよう。
予約診察に予定通りうかがった。
迷いながらも申し出るまでに十二分に検討して相談に来たのだからやはり処方に前向きではあるけれど、パンフレットを読んでもう一度迷いもしていると、実直に話した。そして、時期的に今こそふさわしいと思うとも。U医師から処方されたのは、ストラテラのほうだった。コンサータは12時間も作用するから、毎朝一回飲めばいいが、リスクが高い。
まだ新薬ということもあり、わたしが2冊、保育園宛に1冊のチェックリストが渡された。「強いこだわりがある」「じっとしていられない」などの項目を、現状での息子の平素の様子から4段階でチェックしていくもの。これを投薬を進めるにつれ、定期的に提出することとなる。
近場の調剤薬局に、ストラテラの在庫はなかった。処方箋を見る薬剤師も「?」顔。近隣は小児科しかないから、見ることはないのだろう。ジェネリック医薬品でも可能か否かにチェックが入っていないため「ジェネリックがあればそちらでもかまいませんか?」と聞かれた。「おそらく存在しないでしょう」とお答えして、取り寄せていただいた。それが金曜だった。どうしても土曜日からスタートさせたかったから。
息子に副作用が多く出ませんように。食欲不振がただの気まぐれであることを祈る。かゆみも乾燥肌のせいであることを願う。何より、処方量はスタート時に出される量・1.2mg/kgには満たない。効果がみられるまでは6週から8週といわれている。副作用だけタキオンな速さで出ているわけではありませんように。変わらない生活環境下でスタートさせたことだけは間違っていないはずだ。仕事で離れている間じゅう、気になって仕方ない。
息子の世話が増えて、わたしのクマが増えたっていい。功を奏するのであれば。