自閉症の息子を無駄に我慢させている
二人きりの暮らしでこときっついなぁと思うこと。
遅い帰宅で、道中に車で寝入ってしまう息子。駐車場から自宅までの短い距離でも8歳、体重28kgになった今は、もう抱いて連れて帰れない。ううん、3年くらい前からできていない。
帰り道に起こして自力で歩いてもらわなくてはならないことが、ひどくつらい。
友人と小旅行などについて話していた。「早起きできるならいいよね。俺も子どもは寝たまま抱いて車に乗せちゃって出発したもんだ」。あれ…同席している息子を見ての話なのだから、彼には「できる」のだ。たしかに荷物がすごく多くて、日帰りでも場合によってはリヤシートが埋まる。息子はまだといえばまだ8歳。わたしの体力が劣っているのか。なぜできないのか。
荷造りも、荷解きも、準備も、片づけも、ひとり。事前に時間をつくりふたり向かい合って計画を立て、紙に必要な準備から帰宅後のすべきことなどを書いていけば、息子も手伝うことができるだろう。実際にそこまでわたしができない。するならば仔細まで記さなくてはアスペルガーの息子は混乱するだけだ。「できた」ことをたくさん褒めて自己肯定感を高めてやる…とは言うが、互いにはち切れる寸前で生きていると砂場からダイヤモンドの粒を見つけ出すようにも思えてくることがある。
現地で舞い上がる息子をなだめ(ときにはり倒し)、延々と話し続ける戦国武将のうんちくを聞くのもひとり。聞いてないけど。高速運転中に寝入ったときにひざ掛けを手の届く範囲に置くことを忘れるとかけてやれなくなる。
天候に左右される外出には事前の説明が欠かせない。また「現地で雨が降りそうな予報ならば雨具」という予測的な準備は難しいので、わたしが担う。おやつならば「好きなもの」と言えば、その瞬間の気分で「ガムばかり」など偏って選び後悔するなんてこともあるので「3個まで」だけでもまだ具体ではない。「ハイチュウいちご味1つと、チップスターしお味を1つと、ラムネをひとつ」まで記さなくてはいけない。よしんば書いたとしても、次はADHDが作動するので、おやつを在庫してある箱を目にすれば、たちまち好きなキャラクターパッケージを読みふけったり、やっぱりこのおやつがいい、あのお菓子は欲しいとはじまる。だから基本的にお菓子をしまってある箱は立ち入りさせない部屋に置いてある。こんなの子どもなら誰にでもあるとは思う。
よくないのはわかっていても、そんな計画ごっこをする時間を捻出しがたい。こちらも睡眠時間にダイレクトに響くともなるとヒステリックにもなる。精神衛生上ひとりでやってしまう。
そうしてようやくちょっとしたお出かけをして、帰りが遅くなる。息子はときに「お母さんひとりで運転してかわいそうだから」と起きていようとがんばるが、寝るよう促す。たいてい息子はその日に楽しかったことを振り返ったり、願望を夢で見ていると聞いている。口角がニヤッと上がる様子がよく見られる。
楽しい一日を振り返る夢を見たまま布団で寝かせてやりたい。せめて夢の中だけは自由に誰にも叱られずのびのびさせてやりたい。遊び疲れて満足顔で寝入っている息子を起こすのはすごくしのびない。
3年くらい前までは、状況によって息子を先に抱きかかえて連れ帰り、お布団に寝かせてそっと荷物を取りに駐車場を往復するか、息子を車に寝かせたままで先にいくつかの荷物を部屋へ持ち帰ってから息子と残った荷物を連れ帰っていた。途中で目を覚ましてしまい、寝かしつけるまでドアロックも忘れた車の貴重品をハラハラしながら放置したこともあった。それもしなくなったのは、息子が成長したからだけだろうか?
もっと切ないのは、すやすや寝ていたにもかかわらず、起こされた息子がぐずりもせず起きて自分の足で家路につくこと。寝ぼけ眼で「だいじょうぶだよ」と言い、へなへなの足取りで、それでも泣けない子に育ってしまった責任は重い。こんなきゅうきゅうな環境で、この子のもつ美点をわたしがへし折っている。発達障害で何より恐れている二次障害の四文字がちらつく。
周囲がわたしにねぎらいの言葉をかけてくれるのはとてもありがたい。いっぽうで本当によく言われる「子育てで苦労するでしょう」を、聞きたくないシーンも少なくない。学校教員が、児童相談所の心理士が、保健センターが言うなと思ってしまう。そんなことは言えないので「ご指摘の部分で多少の手間はあるでしょうけれど、子どもだからで済ませてもよさそうなところもあるし、かえって手のかからない部分もある。もはや『疲れる』などと言えばわたしの度量による問題だと思っている」と答える。とはいえ自己肯定感を高められる要素を生活に取り入れてやれていない現状を顧みると、わたしの限度は小さく「無理ですね」と言われてもやむを得ないのかもしれない。
自閉症に産んでしまったこと以前にひとりで産んだことを、本当に申し訳なく思う。生後たったの5年ほどで、受けられるはずの庇護を受けさせてやれていない差別は確実にはじまっていて、この子を蝕んでいる。わたしが分裂して二人になれないなら、せめて腕が4本に増えないかなぁ。あるいは耐荷重量が倍にならないかな。このときばかりは自分のていたらくに腹のひとつも切りたくなる。あんまりやるせない。へたれたプライドは自分に泣くことを絶対に許さない。
※とかなんとか久しぶりに弱音を吐いたらパニック発作みたいの起こしたヘタレです。