うちにもタイガーマスク
冷え込みが厳しくなく、雪も少ない北海道の冬。「Tommy Hilfigerのダウンコート買って大正解。すっごいあったかい！」といくぶん誤解していたことは棚に上げて、道産子なめんな。わかってたさ。
やっぱりツケがドカッときた。
北海道の冬は、除雪で経済が動く。冬場に仕事を失う業種の方々が、冬は除雪作業を請け負ったり、それを札幌市が契約していたり。民間の除雪作業請負業者も存在し、ひどいことに前金で支払わせて逃走する詐欺も横行している。
雪は一気にどっと…というほどではなく、雪かきしないとねーレベルが毎日のように続く。凍っているだけだった冬道は、すぐに両脇を雪山に阻まれ、片道1車線の道路は片側交互通行。脇道から大きな道路に出るのは一種の賭けレベル。ルートを変更して、遠回りでも国道を通るようにしている。
寒い日はダウンコートどころかヒートテックシャツを2枚重ねても寒い。弁慶な腰のためにヒートテックパンツを穿いても寒い。靴下を2枚履いても爪先が冷えっぱなし。冬はベランダに2枚重ねの段ボールを置き、野菜の保存をしているのだけど、今冬はにんじんもじゃがいももキャベツもたまねぎも凍ってしまった。パイナップルなんかは凶器になりかねない凍結状態。
クルマでの移動が多い。毎日毎日、駐車場とクルマの雪かきに追われる。ブラシで落ちない窓の氷をかき落としても、雪が降っている真っ最中に走れば、すぐにワイパーがピラーの横に積まれて視野が狭まる。エンジンスターターはつけているのだけど、自宅から届かない。毎朝キンキンに冷えたエンジンを始動させられる、可哀想な我がクルマ。ミラーヒーター、ときに忍耐の限界でシートヒーターもつける。ガソリンがすさまじい勢いで減っていく。
まだまだ毎日「雪かきが必要」程度ではあるが、朝は雪かき作業に割く時間がとても痛い。我がマンションは排水管どころか集中暖房も不調らしく、朝6時には入るはずなのに今冬は6時半をまわってもまだ弱々しい。えーちゃんが直してくれたデロンギのミニファンヒーターは、もともと暖房が切れる深夜に及ぶ自宅作業のために購入したもので、狭い部屋でもとうてい暖まるものではない。という言い訳をして、とにかく早起きができないこのごろ。おかげで雪の降った朝はなおのこと厳しい戦いに挑む。
が、先週あたりから、やけに歩道がキレイに除雪されている。マンションのエントランスと真裏の駐車場までの道は、除雪が行き届いていないこともあるというのに、毎日どれだけ降ってもショートブーツで平気そうなくらい。
そのうえ、マンション家屋に向けてクルマが並んでいる駐車場もクルマの真後ろまでは除雪されていることがあった。屋外駐車場は除雪は各自という契約で、安く借りられており、管理人の仕事には含まれていない。
ある朝、駐車場までの歩道を除雪してくださっている男性をみかけた。それはもう熱心に雪かきしてくださっていらした。お礼を言うと、はにかんで「趣味だから」と返された。あたたかな気持ちになった。
本気で遅刻する時刻で、動転して駐車場へ駆けつけた朝は、偶然にもわたしのクルマの前を除雪してくださっていらした。わたしがすべき部分を手伝うどころか今にも出発しなくてはならないというとんでもない非礼を詫びると「大丈夫だよ、急いでいっておいで」と送り出してくださった。
また会ったので改めてお礼を伝えると、「なんも、いま、仕事ないからさ。家にいてカカアと顔突き合わしてケンカするよりずっといいし」と、照れたように笑うだけ。
それから何度か、その方の除雪作業時間とバッティングした。彼は歩道ばかりか、札幌市の除雪作業で幅広の雪山ができて片側交互通行になっている車道側の雪山を削る作業までなさっていらした。
除雪作業は100メートルでおよそ100万円かかるそうで、予算の多くを除雪費に充てる札幌市は、道路に優先順位をつけ、道幅は救急車が通れたらとりあえずOKなどの規定を設けている。
そんな幅広の雪山の裾野を削って山に登り、それを高く積む作業は、危険で、重労働。そんな作業をかって出てくださるお気持ちがありがたくて、またお礼を言った。「ヒマなんだよ。いい運動になるしね」と、汗を光らせて、やっぱりはにかんだ。
数日経って、同じマンションの住人と居合わせ、その方の話題になった。
「○階の方なんですって。毎日ありがたいわよね〜」
男性の正体をうっすら発見してしまった。特定までに時間はかかるまい。
その男性をお見かけするようになってから、朝のモチベーションがちょっと上がっている。こんなふうに、人のご親切に触れられて、わたしも何か役立つことをしたいなと思える。素晴らしい循環。
いま、全国各地の児童相談所、あげく交番に、タイガーマスクをはじめとした匿名を名乗ってランドセルや文房具が贈られている。素直に美談だと思う。
実はね、うちのマンションにもいるんだ。
雪国で本当にこんなありがたいこと、ない。
週末、ささやかなお礼を用意しよう。願わくば、顔の見えるタイガーマスクさんには、お礼のしるしを受け取る義務を。
甘いものが苦手でいらっしゃらなければ、こんな大粒の栗が入ったおまんじゅうでもと思っている。
大きな栗を贅沢に使用した当店人気商品！柔らかに仕上げた大きな栗を上部に乗せた定番の菓子で… |
